inasikinohanasi日和

茨城県稲敷市地域おこし協力隊が稲敷について語ります。

まなぶくんと、こい。

以前話していたこいのぼりの紙芝居の脚本(童話小説?)が完成したので、こちらに残そうと思います。

 

 

 

『まなぶくんと、こい。』

f:id:mohou-miyabe:20180410085429j:plain

 

 まなぶくんはとても体が弱い男の子でした。いつまでたっても咳はごほごほ、鼻水ずーずー、お医者さんにみてもらっても、一向によくなる気配がありません。

 それでも、たまに外にお出かけしにいくときだけ、まなぶくんは元気いっぱいになります。

 今日はまなぶくんが大好きな公園に行きます。お母さんと一緒に、車に乗ってびゅん。あっという間についた公園には、一本の川が流れていました。

 川はゆったりと、きらきら流れています。

 ぴょんっと、小さなものが飛び跳ねました。どうやら何かがいるようです。

 まなぶ君は川に落ちないよう、そっと顔だけを出して、その「なにか」のほうを見ました。赤と白が混じった、一匹のこいのようでした。

 まなぶくんは嬉しくなって小躍りします。生まれて初めて魚というものを見たのです。すかりこいの虜になってしまって、もっと近くまで顔を寄せました。

 すると……。

 きれいな赤と白の模様に、一筋の銀色が混じっているのが見えました。まなぶ君がより目になってもっと顔を近づけると、それが一本の釘だとわかりました。

「うわあ」

 さっきまでは楽しそうに飛び跳ねているように見えたのに。まなぶくんは少し怖かったのですが、こいを助けるために川の中に入って、刺さった一本の釘を取り出してあげました。

 すると、どうでしょう。こいはすっかり元気になって、川を泳いでいくではありませんか。

「いっぱい生きてね」

 まなぶくんは嬉しくなって、また小躍りするのでした。

 

 助けられたこいは、それからみるみる元気になって、すいすいと川を泳いでいきます。

 ふと、こいは、自分のことを助けてくれた人のことを思い出しました。

「あのやさしい男の子にまた会いたいなあ」

 川を泳いで、初めて男のことあった場所に向かいます。何日も何日も男の子がやってくるのを待ちますが、一向に現れる気配がありません。

「男の子なら、もうずっと、家から出ていやしないよ」

 一匹のカラスがこいに向かっていいました。

「それならどこの家か知ってるのかい?」

「そりゃあもちろん」

 カラスが教えてくれた場所に、男の子はいました。ベッドで寝たきり、虚ろな目で天井をみあげるばかりでした。

「もう治らないって」

 いつの間にかカラスがやってきていて。こいに言いました。

「治らないって、何が」

「あの子の病気さ。釘が何本刺さっても叶わないくらい、重い病気なのさ」

「そんな……」

「一つだけいい方法があるんだけど、聞くかい?」

もったいぶって言うカラスを、こいは急かしました。

「そんなに焦るなって。いい薬草があるんだ。どんな病気でもぱっと治っちまうような、ものすごい薬さ。公園の横の川をずっと行った先、大きな滝があるだろう? あそこを登った崖の上にあるらしいんだ」

 こいの目がぱっと明るくなりました。

「それを取ってくれば、あの男の子の病気は治るんだね?」

「もちろん」

 

 こいはとにかく急ぎました。こんなに急いだことは、かつてありませんでした。男の子の家を出て、公園横の川を泳ぎ、さらに数十キロ先にある滝までやってくるのに、どのくらいの時間がかかったでしょう。こんな遠くまでやってくるのも、こいにとって初めての経験でした。

 しかし、大変なのはこれからです。こいは試しに、滝の下まで近づいてみました。ゴウッ、という大きな音が鳴って、滝が怒っているようでした。こいの体には絶え間なく水しぶきがかかり、それだけで体力が消耗し、気が遠くなってしまいます。

 それでもこいは、力強く「いくぞ!」と大声を出して、滝に立ち向かいました。これまでと同じようにゆらゆらと体を動かすだけでは到底この巨大な滝を登りきることはできません。

 こいは尻尾を使って水面を叩くように、ジャンプしました。普通なら20センチくらいはジャンプできるのに、滝の中では5センチも飛べません。すぐに力尽きて、滝の一番下まで落っこちてしまいます。滝の勢いにやられて、川の下、奥のほうまで流されてしまいました。

 水面まで上がってくる間に、こいはたくさんのことを思い出していました。生まれてから起きたたくさんの楽しいことです。お友達のこいと、景色の良い場所まで出向いてピクニックしたことや、泳ぎ大会で一等賞に輝いたこと、家族のこと。

「ぼくにできるんだろうか」

 呟いて、こいが思い出すのはまなぶくんの笑顔でした。あの子のために。あの子の笑顔のために。初めは恩返しのつもりだったのに、いつのまにか、まなぶくんの笑顔をもう一度みたいと願う気持ちが強くなっていました。

 もう一度滝に登り始めて、こいはまた水面まで叩きつけられました。登って、叩きつけられ、登って、叩きつけられ。何度も何度もこいは、まなぶくんの笑顔のために登り続けました。

 こいが滝の半分まで登るころには、日も落ちた夕方になっていました。でもこいは諦めませんでした。このチャンスを逃したら、もう薬草を取ることは叶わない。うろこも剥がれ落ち、体は自由が利きませんでしたが、懸命に登り続けたのです。

頂上まで登り切ったこいは、初め、登り切ったことに気が付きませんでした。すっとんきょうな顔をして、簡単なことを成したように、一度ぴょんっと飛びはねただけです。

 薬草はすぐちかく、崖の上にありました。ジャンプしたついでに、口で薬草をもぎ取ると、こいは真っ逆さまに滝を落ちていきました。

 

 まなぶくんはずっと、家の窓から外を眺めていました。

 あくる日もあくる日も、外ばかりを眺めていました。雲が流れていて、空が青くて、太陽はさんさんで、だけど、まなぶくんは外に出ることができませんでした。

 そんなとき、家の近くを流れていた川から、ぽちゃんという水の音が聞こえました。気になってそちらのほうを見ていると、赤と白と緑が目にはいりました。

 まなぶくんはどうしても気になって、お母さんの言いつけを守らずに外へ出て確認しに行きました。すると、そこには以前、釘を抜いたこいの鱗と、薬草が置かれていたのです。

 

 薬草を口にしたまなぶくんは、それからすっかり体の調子がよくなって、また外へお出かけできるまで回復しました。元気になったまなぶくんが一番初めにしたことは、こいを催した「こいのぼり」を作ることです。一片の鱗が輝く、まなぶくんだけのこいのぼりです。

 

 悠々自適、そよかぜに揺られて泳ぐこいのぼりは、まるで生きているようでした。

 

 

 

ここからもう少し幼児向けの文章に推敲していく予定なので、また変更が生じてくるでしょう。あと、最後をもうちょっと明るい終わりかたに変えるかも。

これで今日のブログは終わり。

淡白なブログもまた一興ということで。