inasikinohanasi日和

茨城県稲敷市地域おこし協力隊が稲敷について語ります。

稲敷の江戸崎甲にある『がんこや』を小説風に紹介してみた!

 

 田んぼ道を歩きながら、瓜田は珍しく落ち込んでいた。

 かつての旧友たちとはすっかり連絡が途絶えていたのに、ある日、急にラインが入ったと思ったら、「結婚します」の一言。式に呼ぶわけでもなく、「明日雨が降ります」とか「虫が出ました」といった報告に過ぎない、無味乾燥とした連絡に酷く心をかき乱された。

 しかもそれが実は「結婚します」ではなく「結婚しました」だったのだから、瓜田の怒りも然るべきだった。

 瓜田はそれをタイムラインで知った。ウエディングケーキを囲み、楽しそうに笑う新郎新婦。新郎新婦を囲むのは、懐かしい顔ぶれの連中ばかりだった。特攻隊長の印藤に、にぎやかしの坂内、龍の落とし子こと桐崎、右腕爆弾の万代、背中毛多しの白夜、古今東西獏良谷、外国人ピンチヒッター・ジョセフと、A中学校の面々が画面をスクロールするごとに登場しては消え、また現れる。みな一様に笑顔で、スマホを見ている瓜田だけは岩のように硬い表情を崩さなかった。

 あのときの友情を忘れて社会人になり、友を忘れて結婚をし、事後報告の連絡さえ直接ではなくライン越し。こんなことならかたくなまでに大学進学を選ばずに、連中と同じように高校卒業後、自営で商売を始めればよかったとつくづく後悔した。

 夕方間際、もう少し時期が進めば、田んぼに水が引かれ、苗植えが始まるはずだった。水田に映る夕日を見たくて散歩を始めたのに。瓜田は行き先を変えて、踵を返した。

 一抹のわびしさを紛らわすために、人がたくさんいる場所を目指した。稲波にある田んぼから県道49号線のほうに歩いていくと、駐車場にたくさんの車が停まっているのが確認できた。

 看板には『がんこ屋』の文字。瓜田はそこまで腹を空かせていなかったが、寂しさを紛らわすために中へ入ることにした。人はそこまで多くない。ラーメン屋にありがちだが女性客は一割にも満たず、席は男性客でいっぱいだった。一番奥の席に通された瓜田は、スーラ―岩のりおろしラーメンを注文する。

 十分も待たず、お目当てのラーメンが目の前に差し出された。まずその暴力的なインパクト大の見た目に圧倒される。

黒くパサついたノリ。それが一度汁に浸されると、水気を吸ってダイヤモンドのごとく光輝く。原石がこんなにもきらびやかに輝こうとは。いったい誰が予想できただろう。

 そして、おろし。しかしおろしはこのラーメンの具材の中ではあきらかにインパクト不足だ。その存在感の薄さから、瓜田は「忍者」の称号を勝手に与えることにする。

 チャーシューは一つ。分厚い。箸で持ち上げただけでその柔らかさに度肝を抜かれる。ああ、よだれが。

 早速汁を啜る。それほど酸っぱくはない。どころか甘みを感じる。出汁の甘み。一度啜っただけで出汁の甘みが、二度啜っただけでラーメンの世界観が、三度啜っただけで店主の人生が、四度啜ればイッツアラーメンワールド(?)。ラーメンのストーリーが口に広がる。この世界に脇役は存在しえなかった。

 次に口をつけるのは岩のりだ。うん、ぱさついている。汁に付けて初めて本領を発揮するスロースターターなノリは、見た目と同等、味にも確かなパンチがある。それまでラーメンを食べていたのに、一挙に押し寄せる磯の香。ああ、泳ぎたい。

 ここではじめて麺を啜る。啜る、啜る、啜る。岩のりが絡まって、麺に新たな触感をプラスする。もう満足だった。これだけで八百円の価値はある。

 しかしこのラーメンの猛攻はとどまることを知らなかった。さきほど見た目のインパクトが弱いと揶揄したおろしがここにきて、山の偉大さを存分に発揮してきたのだ。

おろしのさっぱり感ですべてが浄化される思いがした。今までA中の連中と巻き起こしてきた悪行の数々も、神に背いた非道も、あれやこれらも、さっぱりと。懺悔したい思いで涙ぐんだ瓜田に、おろしはそっと微笑んでくれた。

「大丈夫、君は一人じゃないよ」。

 磯のノリ、山のおろし、二つの神を携えたこのラーメンに死角はなかった。しかし、忘れてはいけないチャーシューの厚み。歯がいらないという手あかのつき過ぎた表現はもう使いたくはない。肉の繊維が噛むたびに崩れていく、『崩壊する肉』とでも呼ぼうか。

 瓜田の手は止まることを知らなかった。汗が噴き出ても構うものかと、一気に麺を啜り上げる。もう一抹のわびしさなど感じる暇すら与えてはくれなった。腹は満たされ、気持ちも落ち着きを取り戻した。

 

――あいつのこと、許してやるか。

 

 店を飛び出し、歩幅は自然と大きくなる。急ぐ必要もないのに、次第に駆け足になって県道を突き進む。途中、爆走するNBOXとすれ違って瓜田は目を丸くしたが、もうそんなこともどうでもよくなるくらい、気分がハイになっていた。

 その時だ。瓜田がいる歩道の反対側に、彼女の姿を見つけたのは。

「おい!」

 女が振り返る。そのあとを追うようにして、女の横にいた男が振り向く。

「てめえ!」

 瓜田は駆け出した。女と男をめがけて、猛進する。反対車線から車が来ていることにも気が付かずに。

 

 

f:id:mohou-miyabe:20180413142609j:plain

 

 

『がんこや』江戸崎店

所在地:茨城県稲敷市江戸崎甲934−3

営業時間:11時00分~21時30分

定休日:月曜日

電話: 029-892-8115

 

 

 

この物語を初めから読みたいならこれを読むべし!

 

mohou-miyabe.hatenablog.com

 

 

 

 

追記

てか『がんこや』チェーン店なのね

稲敷だけの店かと思ったんだけど

ま、いっか。うまかったし。