2018年『いばキャラ祭り』にいなのすけが参戦!
負けられない戦いがある。
マスコットキャラクターもマスコットキャラクターなりに苦悩していて、「誰々よりも不人気だとマスコットキャラクター界から抹殺される」なんてうわさもちらほらと耳にする。
茨城県稲敷市のマスコットキャラクター・いなのすけは、そんな醜い世界とは無縁の場所で戦い続けてきたが、4月29日(日)に水戸で開かれた『いばキャラ祭り』においては、彼のずっと抑え続けてきた血を湧き上がらせるだけの戦いが巻き起こっていたので、もうどうすることもできなかった。
しかし、そこはマスコットキャラクター。殴り合いで戦いの勝者を決定するには、血なまぐさすぎるため、雌雄を決する種目は――
椅子取りゲーム
ここで、椅子取りゲームがわからない坊やたちのために、懇切丁寧な説明をウィキペディアさんがしてくれるよ。
- 椅子取りゲーム
椅子を外側に向け円状に配置し、その周りに参加者が立つ。
椅子の数は参加者の総数よりも少なくする。
音楽と共に参加者は椅子の周りを回る。
音楽が止められると即座に椅子に座る。この時に椅子に座れなかった参加者はそこで負けとなる。
椅子の数を減らしていき、最後まで椅子に座っていた人の勝ち。
一見楽しいだけのゲームに思うことだろう。否、今大会において「楽しい」は初めから除外されている。音に合わせ楽しく踊り出すゆるキャラを、手を叩きながら楽しそうに見守る子どもたちは、何も知らなかったのだ。ゴングがずっとなり続けていることに。
いなのすけは第三グループに割り当てられた。ほかにも、とちまるくん、ポンデライオン、みとちゃん、いもぞー、もりすけ、千姫ちゃま、ひぬ丸くんと強豪ゆるキャラがしのぎを削り、すくない椅子をかけて勝負する。それ以下でもそれ以上でもない、正真正銘、まっとうな勝負だ。
有力候補の筆頭は、ポンデライオンと、いもぞーだ。彼らはさも椅子取りゲームをするために生まれてきたかの如く、下半身の稼働力があり、尻が人間然としているため、他のどでかいお尻のマスコットキャラクターよりも座りやすい設計をしていた。しかし逆に言うと、どでかい尻をしているマスコットキャラクターのほうが、面積が広いため、簡単に椅子に座れるかもしれない。どう転ぶのか、始まってみないと勝負の行方は分からなかった。
初戦、四つ置かれた椅子の周りに、七人のマスコットキャラクターが並ぶ。その姿は圧巻だった。互いが互いに睨みを利かせ、相対するマスコットキャラクターはもはやマスコットではなく、一人の武士。男の中の男だった。
ゆるゆると動きながら、距離感を図るマスコットキャラクターたち。外目には激しい野心に満ち溢れているとはだれも思わないだろう。
いざ、戦いの火ぶたが落とされた。
音楽に合わせながら、ふりふりと尻を振るいなのすけは、謙虚ながらも、いもぞーの後ろを追いかける。いなのすけの後ろを追うのは、人一倍頭のでかいとちまるくん。その異様な存在感がいなのすけの意識にどのような作用を及ぼすのかは計り知れないが、今のところいなのすけに変化は見られない。楽しそうに歩くばかりだ。
音楽はなり続ける。そのとき――。音楽が止まった。
その刹那、いなのすけは思い出した。
椅子取りに支配されていた恐怖を。
いばラッキーに囚われていた屈辱を。
いなのすけは今大会に、非常に強い思いで臨んでいた。
昨年のいばキャラ祭りで、いなのすけは涙をのんだ。仁義なき椅子取りゲーム。諸行無常の響きあり。泣くまで待とうホトトギス。頂点に立つものは、全てのマスコットキャラクターから崇拝され、一神教の神の座を与えられる(うそだよ)という、今大会で、いなのすけは、国体マスコットキャラクター・いばらっきーに敗退を喫した。
椅子に座ったのはいなのすけだった。だから彼は完全に勝ったと、心の中でほくそ笑んでいた。デスノートの夜神ライト的な笑みだった。しかし、実際に勝利していたのは、いばらっきーのほうだった。彼はいやらしくもいなのすけの尻に手を指し伸ばし、Lよろしく、完全勝利したといなのすけに勘違いさせ、泳がせ、自身の勝利をもぎ取ったのだ。
それからというもの、いなのすけは寝つきが悪くなり、普段は十時間眠れるところ、八時間くらいしか眠れない体になってしまった。いばらっきーのことを考えるだけで、負けた悔しみが蘇り、全身に冷や汗をかきながら悶える日々が続いた。
時間を作って椅子取りゲームの練習に励むいなのすけ。スクワットは何百回やったかもわからない。打倒いばらっきーを近い、血を飲む努力をし続けてきた。すべては、2018年のいばキャラ祭りのために――。
音楽がやみ、ゆるきゃらが一斉に動きを止める。中央に置かれた椅子に群がり、おしくらまんじゅうを始めた。乗車率200パーセントの満員電車に匹敵する密集で、たちまちにゆるきゃらの団子が出来上がった。
いなのすけはというと、写真の通り、姿を確認することもできない。もみくちゃにされながらも、必死に抵抗しているのだろう。いばらっきーの不敵な笑みを思い出して。
徐々にキャラクター達がはけていく。明らかになっていく勝者と敗者。いなのすけはというと……。
察してほしい。彼も彼なりに頑張ったのだ。スクワットのせいで筋肉痛になっても。ベストコンディションでは決してなかった。それなのに弱音もはかず、雨にも負けず、打倒いばらっきーを心に誓って一所懸命頑張ったのだ。
負けるな、いなのすけ。いくんだ、いなのすけ。いのちをだいじに、いなのすけ。
寂しそうに俯くいなのすけに、僕たちができることは、一体何なんだろう……。
追記
久々にふざけた文章なので
書いていてすごく楽しかったのです