inasikinohanasi日和

茨城県稲敷市地域おこし協力隊が稲敷について語ります。

稲敷境島のあらいやオートコーナーを小説風に紹介してみた!

 

 

 

 冬もすっかり鳴りを潜めた初春の頃。

 

 

 のっぺりとした畑や田んぼに囲まれた国道沿いに、甲高いブレーキ音を発する一台の車が、タイヤ痕を残して急停止した。

 

 

 美由紀の激高は、最高潮に達していた。

「もっと必要だって言ってるでしょ!」

 

 敷島の制止を振り切って、美由紀はNBOXから飛び出した。これ以上ない腕力で扉を閉め、走り出す。行くあてのない旅には赤いハイヒールは不向きで、少し走った先でヒールの部分が取れ、美由紀は泣きながら、コンクリートの道――国道51号線を素足で駆けた。

 

 敷島の計画性のなさは、ほとほと美由紀を呆れさせていた。

 例えばこの前の旅行の時もそうだった。

 

 箱根に行くと決めてから、「すべて俺に任せろ」といった彼を信用し、その言葉通り、全てを彼に任せたのが運の尽きだった。

 まず彼は、旅行で一番初めに決めるであろう宿を、来てからでいいだろうという謎の楽観性を見せて、事前予約をしなかった。平日に旅行へ行ったとはいえ、人気スポットである箱根、案の定、どこの宿も空いておらず、五、六件回ったところでタイムアップ。午後八時、現地でレンタカーを借りて車中泊するというあり様。

 さらに、美由紀が絶対に行きたいと言っていた「ぱんのみみ」も、その直前のスケジュールで入れ込んでいたガラスの森の美術館の滞在時間が押して、――そもそもぱんのみみの営業時間が午前11時から午後16時であるという情報さえも彼は把握していなかった――行くことは叶わなかった。美由紀は絶対に「ぱんグラタン」の写真を撮って、インスタグラムにあげようと考えていたのだ。箱根に行く一番の理由はそれだったのに。

 

 ふと、美由紀は過去を思い出すのをやめ、突然立ち止まった。

 美由紀の足はもう限界に近づいていた。いつも靴に守られているはずの足は、舗装されたコンクリートの上でさえも、ちゃんと機能してはくれなかった。通り過ぎていく運転手の視線は痛いし、足はもっと痛い。

 泣いたせいで化粧は崩れ、もうお花見どころではなくなってしまったことを今更ながら自覚する。両手で持ち上げたハイヒールはただのヒールに、結婚間近の花嫁はただの女に、楽しいはずの花見も、涙ばかりが散る虚しい行事へとなり果ててしまった。

 

 結婚。お金さえあれば。親さえ認めてくれれば。彼さえしっかりしてくれれば。場所さえ都合が付けば。誰かが後押ししてくれれば。なんとかなっただろうに。

 

 セブンイレブン茨城東西代店から鹿嶋方面に走り続けること、約2キロ。美由紀の涙が枯れることはなかったが、次第にその原因は足の痛みだけではなくなっていった。

 

「あらいやオートコーナー」という文字を目にしたとき、美由紀はまず、自身の目をこすりにこすった。看板に書かれた文字がかすれて読みづらかったからだ。しかし何度目をこすっても滲んだ文字は滲んだ文字のまま。看板自体がかなり前に建てられたようで、雨やら何やらでだんだんと文字が薄くなってしまったのだろう。吸い寄せられるように看板奥に進むと、そこには取ってつけたような平屋があった。中には人が数人と、おそらく自動販売機と思われる大型の機械、そして故障中の札が張られたアーケードゲーム。その一角だけでもレトロが過ぎていた。

 

 美由紀は恐る恐る平屋の中へと入り込んだ。椅子に座っているのは、つなぎを着た作業員風の男性一人のみ。男性が急ぎ足でかき込み食べているのは弁当のようだ。さっきまでいた老人は美由紀と入れ違いに外へ出て行ってしまった。

 

――もしかして、これ?

 

 ぼろぼろの自動販売機に近づき、手書きの文字を読んでみる。

 焼肉弁当300円。ひれかつ300円。鶏唐揚げ弁当300円。

 まさか本当に弁当が出てくるなどと、美由紀は了見もしていない。しかし300円を一枚一枚確かめるようにゆっくりと入れ、焼肉弁当のボタンを押し、そのあとすぐ温かい弁当を手にしたときには、驚きを隠せなかった。今度は唐揚げ弁当のボタンを押す。続いてひれかつ。面白くなってまた300円を投入しようとしたところで、

 

「美由紀!」

 

 腕を取られた。後ろを振り向くと、怖い顔をした敷島が、美由紀の目を真正面に見据えていた。

 

「足から血が出てるじゃないか! 早く、ぼくの背中に乗って」

 かがみこむ敷島。その背中は広く、頼もしい。しかし美由紀は頑としてその場から動かなかった。弁当三つを掲げ、彼の前にかざす。

「ごめん。やっぱり花見にコンビニのサンドイッチだけじゃ足りないよね」

 彼の優しい笑顔で、美由紀はまた目頭が熱くなる。

「ううん、私こそゴメン。私が家で作ってくれば、こんなつまらないことで言い争いなんかしなくて済んだのに」

 そういって、美由紀は今さっき買った三つの弁当を敷島に差し出した。

「これで全部解決だね。花見、いこっか」

「その前に病院、ね」

 敷島の背中のぬくもりと、弁当から発せられる温かみが全く同一で、美由紀はそれだけで幸せだった。

 

 

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『あらいやオートコーナー』

所在地:〒300-0723 茨城県稲敷市境島

営業時間:7時~18時

電話番号:0299-78-2526

 

 

美由紀と敷島の行く末が知りたいなら、これを読むべし!

 

 

mohou-miyabe.hatenablog.com

 

 

追記

稲敷の紹介を小説風にやってみたのコーナー。

書き終わって思った。

味の感想書いてない……。

それよりも何よりも言いたかったことはただ一つ。

 

 

 

レトロな機械に

食品を入れるガサツさが

稲敷のいいところ